Noblesse Oblige  ~ノブレス・オブリージュ~

いつも喜んでいなさい。絶えず祈りなさい。すべての事について、感謝しなさい テサロニケ人への第一の手紙5章16節~18節

こいわすれ 畠中恵

こいわすれ (文春文庫)
こいわすれ (文春文庫)
文藝春秋
2014-04-10

前作の「解説」で意外な展開こうご期待!とあったので
ドキドキしながら読みましたが「え?こうなる?」と言う
あまりにも衝撃的な内容だったのですが、ネタばらしをしないことには
書けないのでネタばらしを後半に持ってきますので、知りたくないなあ~
と言う方はスルーしてくださいませ。


さてさて結婚もして一見安定しているかのような麻之助。
かつて思いを寄せていたお友有への気持ちをまだ清算しきっていない
未練たらしい描写や、嫁のお寿ずさんが妊娠中で実家に帰っている
間に届けられた意味深な内容の女からの「相談事」の手紙を貰い、
いそいそと出かける麻之助。
読んでいてイラっとしましたね。笑
「てめ~嫁がいないことを良いことに出かけてるんじゃね~よ!」と。
相手は一回目は来ず、二回目は悪友を伴って出かけるもまた来ず。
3回目は実家から戻ってきた嫁の体調が悪くなって行けず。

結局この文の差出人は

「私はまじめにやってきたのに。

なんでやりたいように暮らしてきたお寿ずさんが、

あんなに幸せそうな顔をしているの…」

納得できなかった。なんとしても納得などできなかった。

どうしても、絶対にダメだった。


とまあ、先日のpresidentの感想で書いたよくある女VS女のヒガミと
妬みの結果の嫌がらせ。
麻之助がひょいひょいと出かけて行ったのもあくまでも「相談事を聞くため」
と言う流れ。
ただその結末に行くまでにお由有さんが

「話したり、書いたりした通りの事を、人が考えているとは限りません。そして腹の中と違うことを言うものは、怖いのですよ」

と言った発言も印象に残る。


例えばモテない歴ン年の三人組がいて。
ある日突然一人が「結婚するから!」と言った途端に残った二人が
その一人をハブるのはよくあること。
そして、一人が去って行ったあと二人で散々悪口を言うのだけど、
内心ではお互いをディスっていることはよくあること。


本作では他にもDVに悩まされている嫁が円満離婚に持ち込んだりと
男女の関係についての描写が続く。


で、究極のネタバレ。(ご注意)


麻之助が仕事に専念(?)している間にお寿ずさんの体調が悪化。
なんと!
早産+死産。追い打ちをかけるかのようにお寿ずさん、天に召される…
「これからもゆっくり一緒に歩いて行こう」と言う言葉を残して。
え?なんで?子ができる。いい父親になる。さっさと仕事を終えて
お寿ずの側に居ようと決心してた矢先にこうなる?!
あれほどふらふらのらりくらりとしていたのに、
実はお寿ずさんに惚れまくっていた麻之助。
お寿ずさんを亡くして一か月たっても言葉の端々に
「なあ、お寿ず」「お寿ずの方が綺麗だ」「お寿ず…」「お寿ず…」…
家族が、悪友が、そして想い人ですら麻之助の事を心配している。
最終話にマザコン男にこぴっどく振られた年若い娘にすら

「私はもう、欄干から落っこちたりしません。(注:自殺未遂)

でも、麻之助さんは…まだ落っこちそうですね」

「やれ、何を思ったのかな。私は大丈夫だよ」

「あのね、大丈夫って言い続けなくても、いいと思うの」

私には父が助けてくれる。何かあっても他の人が助けてくれた。

「でも麻之助さんは、一人で大丈夫だって、言い続けるんですね」


そして
「やれやれ、お寿ず。なんだか変な日だったよ」と自室に戻った途端

大丈夫と思わず、寸の間気を緩めて疲れたと口に出してみた。

そしたら急に、目に涙が溢れてきたのだ。

「お寿ず…止まらないよ」

麻之助はずいぶん長く泣いていた。

丸まったまま、妻を思い出の人にしてしまいそうで今まで泣かずにいたことを、思いだしていた。


ラスト、なんかねえもう胸が苦しくて。
私の夫も私が先に逝けばこれほど悲しんでくれるかな?と。笑
あれだけ飄々としてあまり妻に愛情を持っていないかのような
描写だっただけにこれほどまで深く想っていたのか…と。
このシリーズ、表向きは「町内のもめごと解決話」ですが、
裏設定にこの麻之助の「恋愛話」というか「心の変化」を
仕込んであるという。
そうすると題名の『まんまこと』『こいしり』=恋知り、
『こいわすれ』=恋忘れ  と言う漢字が妥当かと。
なるほどそういうことかあと。


となると、ここで恋女房が身罷ったら、
今では未亡人になっているかつての想い人との関係はどうなる?
新たな疑問と言うかヤキモキする展開が待っているんじゃないのか?
そういう引っ張り方は止めてほしいなあ…


とにかく、今回のラストは胸が痛かったです。
ネタばらししてすみませんでした。
もし私が先に逝ったあと、夫がすぐに再婚したら即化けて出てきて
毎夜首を絞める予定です。笑