Noblesse Oblige  ~ノブレス・オブリージュ~

いつも喜んでいなさい。絶えず祈りなさい。すべての事について、感謝しなさい テサロニケ人への第一の手紙5章16節~18節

まったなし 畠中恵

まったなし
まったなし
文藝春秋

今回の話は麻之助の悪友にして親友の清十郎の嫁取り話で話が進みます。
清十郎は今風で言えば「ジ×ニタレ」の容姿を持ち、腕っぷしも強く
父亡き後しっかりと「町名主」の仕事もこなしていて、当然
「女にもてまくり」人生を驀進中!
しかし、そろそろ身を固めても…と親戚中に追い回されて逃げ回る日々。
付きあった女とは疎遠になりこそすれ「振られたことが無い」と
書いていてちょっとむかつくぐらい「いい男」ぶりです。笑
で、まあ、6編収録されていて、彼の婚姻話をベースに、
毎度の「仲裁話」というか「お仕事」の話が進みます。
そこで浮上してきたのが清十郎の義母でもあり麻之助の昔の想い人である
お由有さんの再婚話。
文中にぼやっと「ああ、私とお由有さんの縁は、重ならないね」と言う
寝ぼけた気持ちもまだ持っているという…(←これがあるから読者はヤキモキと言うか
この二人の関係が最後はどうなるんだろう…と好奇心丸出しで見守るのである。笑)
描写が出てくる。
「お前、お寿ずさんに惚れていたんと違うんか?!」とそのなんというか
気の多いというか気が定まらない主人公の性格にイラっとする。
(むしろ嫁さん一筋!!!!!!てな性格にしてしまうと、この小説そのものが
進まなくなってしまうのだが…)


そんな時ある「もめごと」の中で「お安さん」と言う女性と知り合います。
この人のお父さんも「町名主」なので、親の仕事を見て育っており聡明、
清十郎の嫁に来てもらっても仕事の手伝いをしてもらえるのではたから見ると
「好縁談」なのですが、彼女はすでに二十歳(この時代では行き遅れ…)、
背は高く、服装も顔も地味目…
因みに麻之助&清十郎は26歳、清十郎の義母、お由有さんは後妻なので28歳。
この「後妻になった」理由が後々ややこしく、次巻への布石となっている。


そんなこんなで「もめごと」の話し合いの中で、お安さんに証人となって
来てもらう際、彼女の方から清十郎にこう言います。

「あの、茶屋へはおいでにならないで下さい」

お安はなぜだか少し、さびしげに笑った

「実は、今まで恥ずかしくて言えなかったことがありまして。

私縁談を決めるにあたって、一つだけ望みがあるんです」

お安は、目を見張るような美人ではないし、たまげるような持参金が

付いているわけでもない。よくいる娘の一人にすぎないのだが、

それでも心から欲しいものがあった。

「あの…私、縁談相手から、好いていると言われたことが無いんです。

ですから、明日、茶屋にはおいでにならないで下さい」

多分それは、もし来るのであれば、お安が待ち続けている言葉を

言ってほしいということだ。お安はその一言を、待っているのだから。


切ないですね乙女心。
当時は見合いが当たり前だけにそれでも相手から「好きだ」と言って
貰えれば色々な気持ちを諦め嫁ぐこともできるというのに…


では、清十郎はどうしたかと言いますと…
今回もネタバレになるので、先を知りたくない方はここで閉じてくださいませ。





いいんですね~ネタバレ行きますよ~~~~~~~~~~笑


お安さんとなんとなく婚礼をすることになったような清十郎でしたが
今度はなぜかお安さんからの話がぴたりと止まり、麻之助とお由有さんが
一度お安さんにお話を…と言う運びになったときに世間でもよくある
「あんたなんかより、私の方が清十郎様の嫁にふさわしい!!」的な
文が大量に届けられ、お安さん思いっきり腰が引けてしまった様子。
で、誰がこれを書いたのか…と言う犯人探しに出かけることに。
そこで悪名高い高利貸しの丸三さんの妾のお虎さんが助っ人に参戦。
そこでのやり取りを抜粋。


「あんた色恋に強そうで、きっと実は不器用だね。

そういう男ってえのは、ときどき間抜けに見えるから、用心しなよ」


「ふん、顔でおなごをきめるなんて、本当に大したことの無い男だね。

だから、未だに、嫁が、決まらないんだよ」


「親がおとなしい娘を心配して、あっという間に清十郎へ、縁談を持ちかけたんだっけ。

それで清十郎が、お順さんから逃げ出したんだ」

「あら、麻之助さん、その話が本当なら、大変だ。

清十郎さんときたら、実は、娘さんが苦手なんじゃないのかい?」

と、くそみそに言われる清十郎。ざまあ~~~~~~~



おなご達はほかでも判で押したように、たくましかった。

清十郎と別れたからと言って、キレイなおなごがいつまでも自分を思い、泣いていることなど無かったのだ。

男は昔縁があった娘と、つい、いつまでも繋がっているように

考えるものなのだ。

だから娘たちに何かあったら、女房が居ても、自分が守ってやらねばなどと思ってしまう。

男の勝手で優しい気持ちは、一体どこから出てくるんだろうなと言い、

清十郎が天井を向いた。

真におめでたいですね、男と言う生き物は。(呆)
さて、一方、地味女のお安さん。
あまりのアピール不足をお虎さんに指摘され、変身することに。


「大体、若いおなごが、他のおなごにああもバカにされちゃあいけないね。ええ、きっぱり駄目だ。

お安さん!そんなおばあさんのような色柄を見てどうするんだい!

今日はいつものあんたから、変わりに来たんだと言ったろ」

お安がもう若くないからと顔を赤らめると、縁談の最中に遠慮してどうすると、お虎と髪結いがそろって首を振る。

「今が勝負の時じゃないか」

「女房になって子供でもうまれりゃ、嫌でも地味な丸髷(まるまげ)を

結うようになるんですから」




さて、変身したお安さんを見て清十郎はどのような反応を示したでしょうか?
でね、最後の最後にあるお安さんの「男前」な発言がまたいいんですよ。
いいね~いい女だね~
こんないい女を嫁にしないなんてもったいないね~


と言うことで、よろしかったら読んでみてくださいね。