Noblesse Oblige  ~ノブレス・オブリージュ~

いつも喜んでいなさい。絶えず祈りなさい。すべての事について、感謝しなさい テサロニケ人への第一の手紙5章16節~18節

小やぎのかんむり 市川朔久子

小やぎのかんむり
小やぎのかんむり
講談社

目茶苦茶かわいい表紙!!!!!
裏表紙も目茶苦茶かわいいです。(あ、貼れた)↓



このイメージとは全く相反するこれまたディープな話でした。
むしろ私自身の中高生時代を思い出してつらかったです。
50も過ぎたいい大人になってて「過去に蓋」をして何気ない顔をして毎日を
過ごしているようでこんな風にかさぶたをベリッ!と剥がされる様な本に出合うと
まだまだ全然傷は癒されていないんだな…と思い知らされます。
この本もきっと中高生まっただ中!!!の年齢層が読むよりは私の様にいまだに
「治っていない」人間の方が沁みる一冊かと。
この作家さん、ほんと、上手すぎ! 
下手に「大人向け」の小説を読むよりも響きます。


主人公は中高大一貫校の私立の女子校に通う中学三年の女子。
冒頭でその制服が注目を浴びるせいか、
p10

不自然に視線を上げず、そのくせ他の通行人をよけつつ真っすぐこっちへ向かってきたその男は、ちらりと私たちを見て、また駅へ向かう人々の群れへと戻って行った。



p11

ぎりぎりだった。前から来た若い男が直前で体の向きを変え、私たちの脇を通り抜けて行った。通り過ぎざま、ちっと舌打ちが聞こえた気がしたが、決して睨み返してはいけない。余計なトラブルの元になる。

(中略)

わざとぶつかる。あざになるほど鞄を当てる。そういうのもある。理由なんかない。

いや、あるのだろうけど。



かくして夏休み、急遽申し込んだ自宅から離れたサマーステイ・プログラムでの
一か月のお話。
5歳の「雷太(らいた)」と高1の「葉介(ようすけ)」も加わります。
主人公の「夏芽(なつめ)」も家庭に問題があるからここに逃げてきているのですが
中でもp205

お願いだから

お願いだから、この子をゆがめないで

雷太を、雷太のままでいさせてあげて

どうか、どうか

だって、この子は


「____この子は、宝なんだから」


この描写で涙腺決壊しました…
その前後の描写からちょっと感情的にやばかったんですけど。
ああそうだ。
私もできるならそんな風に言ってくれる人がいてほしかったんだ!って。


冒頭で引用した制服を着た時に男からされる嫌がらせ。
私も同じように電車通学だったので痴漢に遭ったことがあります。
母に話したけれど結果的にはちっとも救いにならなかった



p125

私は電車で学校に通うようになった。そのうち、電車の中で、知らない人に度々体を触られるようになった。初めは気のせいかと思って場所を移動したり、カバンでさえぎったりしていたけれど、それは止まなかった。

段々電車に乗るのが怖くなり、悩んだ末、母に相談した。

母は心配そうな顔で慰めてくれたけれど「お母さんは自転車通学だったから…」とどうすればいいかは教えてくれなった。

「______わざわざそんな奴の側に乗らなければいいだろう」

話はいつの間にか父にも伝わっていた。(中略)

「もう、中学生だろう。それぐらい自分で何とかしなさい。___みんなそうやって我慢して、毎日電車に乗っているんだ」

めんどくさそうに答えられ、口をつぐんだ。ほんの一瞬だけ、父が怒ってそんな奴捕まえてやると言うのを期待したけれど、そんなはずはなかった。


私は自分が母親に前記の様に言われた時、決心しました。
「もし自分に娘ができたら、そして同じようなことを娘が言って来たら
私が母親に言われたような言葉は絶対に口にはしまい!!!」と。
まあ、子供は息子二人だったのでそんな心配は無用でしたけどね…


最後、普段はふざけてばかりの住職が夏芽にこう言います。
p238

「あと、くれぐれも言っとくが『許してやれ』とか言う連中には関わるな。あれはただの無責任な外野にすぎん



私も救われた気になりました。
ああ、嫌だ。自分で書いてやっぱり泣けてきた…
親に慈しまれて育った人にはなかなか理解できない話かもしれませんが。