Noblesse Oblige  ~ノブレス・オブリージュ~

いつも喜んでいなさい。絶えず祈りなさい。すべての事について、感謝しなさい テサロニケ人への第一の手紙5章16節~18節

言の葉の庭 原作新海誠 加納新太著

言の葉の庭
言の葉の庭
KADOKAWA

あくまでも新海は原作であって本作は加納という人が書いた本。
同じ料理名「カレーライス」であっても人によって全く出来上がりが違う、そんな感じ。
アニメ映画では短すぎて意味不明な点が多すぎたのに対してそれを補う新海版。
もっとも小説の方は「この描写、いるの?」とむしろ付加しすぎて不必要にすら思える点も見受けられたが。
一方、それらとも違う視点から書かれたのが本作。
主人公の高校生男子が目指す「靴職人」に重きを置いている。
むしろ文体が新海版より砕けておりより一層「高校生らしい視点」を意識している気がした。靴に対する描写が丁寧で、雪野が
p168

「わたしね…」

「うまく歩けなくなっちゃったの。いつの間にか」



という言葉を発するのですが、職場で精神的に参っていた彼女が靴職人を目指す高校生と語ることによって無くしていた自信や夢を取り戻す話でもあるんだな、と。
そして何より、靴と足という普段隠れた柔らかい部分をそっと彼が包み込むようにして
触れることによってそれが雪野の再生にも繋がる反面ものすごくエロティックな描写でもある。女の素足を触る、という行為が本来「親密な関係」でしか許されないと思うし
自分を苦しめる存在でもある「高校生」のはずが、いつの間にかそれを「いいよ」と差しだすことのできる信頼関係を取り戻しつつあることを表現している部分だと思う。


アニメではさらっと書かれていたから気にならなかったけど、本作を読んで「靴と足」の
関係に重点が置かれると「ああ、そうか…」と気がついた次第。
これが「パン職人」でも「料理人」だったらこんな風に「包み込む」表現ができなかったのかもしれない。いろんな角度から見ると全く違う事が見えてくる。