Noblesse Oblige  ~ノブレス・オブリージュ~

いつも喜んでいなさい。絶えず祈りなさい。すべての事について、感謝しなさい テサロニケ人への第一の手紙5章16節~18節

ペテロの葬列 宮部みゆき

ペテロの葬列
ペテロの葬列
著者:宮部 みゆき
出版社:集英社
カテゴリー:本

最近の宮部作品はどれも長い割に内容が超イマイチ…ばかりだったので「もうこれ以上新作を書くよりは過去の良作を原作としたドラマ化の収入で食べていく方が賢明」とすら思っていた。
で、本作。
いきなり読者すらもバスジャックの人質気分にさせるほどの引き込み方はさすがにうまい!!
つい最近まで鏑木蓮の本ばかり読んでいたせいもあるが、鏑木氏も下手ではないのだが、宮部ほどの描写のうまさは無いなと、「差」と言うものを感じさせられたのは確か。
バスジャックの真相、悪徳商法の人を人と思わない胸糞悪い背景、老人介護の問題…などてんこ盛りで展開していく反面、妙にH氏の描写が出てくるよなあ…と思っていたら最後の「生贄」としての人物描写だったんですねえ…


まあ、本作で夫が妻に対して「奥様」と呼んで表現している。
これじゃあ、姫&騎士の不倫組よりひどい、姫&下僕の夫婦関係だよなあ…
まあ、こんなところからも夫婦としての関係が破たんしているよなあ…とは思っていたけれど。
結婚するに当たってすべての人間関係と言っていいほどゼロの状態にしてマスオさん化して婿にまでなったのに(実家からは「あんたを紐にするために育てたのではない」的なことを言われて絶縁)
すべてを取り上げて、精神的、実質的下僕にまで成り下がらせた張本人が「ごめんなさい。あなたを解放してあげる」と言うことで取った手段が最高な裏切りの形


いや~参りましたね。
良いところのお嬢さんだけど所詮「妾腹」って言う設定を思いっきり露出した形。
それを容認した「義父」も相当悪人。
悪人が自分の悪人魂を引き継いだ子を使って「善人」を「殺した」話、そんな風にも取れる。


確かに、家庭環境、価値観(特に金銭感覚)が全く違いすぎる夫婦ではあるとは思いつつ、よく家族を続けていけているなあ…と既婚者からの立場からしても「不思議な夫婦」という違和感があり続けたのでそれを「解消」するのは自然な形かと。
まあ、菜穂子のやった裏切りは非難されても仕方ないとはいえ、その実、この恐ろしい告白P667

「私あの人と寝ました」何度も寝ました、と言った。

「「恋人に夢中なテイーンエイジャーみたいだった。私そういう青春時代を送らなかったから、楽しかった」

私は自分が死んだのを感じた。楽しかった。妻はそう言った。




この夫婦、妻が心臓が弱いということもあって子供も一回しか出産を許されない状態で得ている。
夫婦の会話ですら「力関係」を感じる位「距離」がある関係で、その後セックスが有ったとは思えない。妻が「夫が私を色々な意味で必要としていない…」と感じるのは当然かと。
まだ子供が小さくて夫婦間のセックスに意味を感じられない人には理解できないかもしれないが相手を思っているのにセックスが存在しない関係って途方もなくむなしい。
確かに菜穂子はH氏と寝たかもしれない。それも「楽しい」と感じるほどに。
けれどこの「楽しい」はH氏ではなく自分の思いに気が付いてくれない、自分と一緒に居る方が苦しそうな気持ちが通じないゆえの「夫の代役」だったでのは?と思うのだが。
本当なら夫と「楽しみたい」。けれど夫は自然と「父の目」になっている。
もう自分を「女」とすらも見てくれず、「預かったお姫様」扱いであることに対する反発でもあったのでは。
ただ、夫を解放する手段としてH氏を利用するのはどうかと。
それ、パワハラでは?絶対に断れない立場の姫と騎士の関係。
夫を傷つけて解放するのならレストラン経営に関わるどんな奴でもいい、それこそコックなり建築関係者でもいい要は父親の会社関係者以外の場末のどこの馬の骨ともわからないような低俗な男と関係を持ってほしかった。
そこまで自分を「貶め」、汚してそして「最低の女」になって夫を裸で放り出してほしかった。
それぐらいの「思いやり」も持ち合わせなかったのか?この女は?
と言うことからやっぱりどう転んでも菜穂子に対する嫌悪感はぬぐえない。
むしろ「昔の妻では無くなった」ことに対して悲観して自死&道連れを選んだ老夫婦の方がよっぽど妻が認知症になる直前までセックスをしてお互いを「好き」であった関係だったのでは?と思う。


バスジャックの被害者としてその慰謝料を自分が受け取ったらどうする?なんて色々考えながら読んでいたけれど最後の菜穂子の行動で一気にどうでも良くなってしまった。
そう、本作の半分以上にわたって書かれていた話は最後の最後ののこの衝撃ラストへ導くための超伏線だったってことで。


それにしても宮部みゆき、本当にえげつない作家になり果てましたね。
昔の作品はどこか救いと言うか名も無き人が必死に世の中を生きている姿に感動したものですが。
最近は「後味も悪いし、内容もイマイチ」が定番化しつつありますね。


にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ


にほんブログ村