Noblesse Oblige  ~ノブレス・オブリージュ~

いつも喜んでいなさい。絶えず祈りなさい。すべての事について、感謝しなさい テサロニケ人への第一の手紙5章16節~18節

離婚男子 中場利一

離婚男子 (光文社文庫)
離婚男子 (光文社文庫)
光文社
2015-12-08

一言、上手い!!と思った。
さすがベテラン、ラノベのペラペラさとは比較にならないぐらい
登場人物全員のキャラが立っていて、このまま適役の俳優を当てはめたら
即2時間ドラマができると思う。
(頼むから欲を出して演技へたくそ過ぎな原作に無い役を無理やり
投入しないでくれよ!そいつのおかげで一気に面白くなくなるから)


主人公は長距離のトラック野郎。
5日前嫁とけんかして「嫌なら出て行け!」と言い残して出発。
帰宅したら「蛍光灯の傘」「使いかけのトイレットペーパー」
までも外されて嫁が出て行っていた。
2歳半の娘を残して…
嫁の造形は

虚言癖があり、浪費癖もある。おまけに見栄っ張りで尻が軽く、

口も軽い。

計画性も無い。でも美人でナイスバディ。




とくれば「ああ、そういうロクでもない嫁、よくいるよね~
その相手の旦那もアホそうで~」パターンが頭に浮かび
「そもそもそこで子供置いて行くか?」と嫁の方が悪者に感じる。


が、読み進めていくにつれて主人公の非イクメンぶりが露呈しまくり、
はては実母からこんなことを投げつけられる。

「世間では虐待や虐待や言うては女を責めますけどな、

あんなもん、全部男の責任ですわ。

女を!母親を!あそこまで追い込むのは男!父親ですわ!

女ひとり、優しい気持ちで暮らせるように、ようせんのか!

このド甲斐性無しめ!!」


拍手喝采!お母さま素敵過ぎます!!!!!
泣きそうになったわ、この部分。


以下、お母さんは自分の旦那さんも息子と同じ年の頃やっぱり
仕事が忙しかったけれどそれでも
「すまんのお美智子、苦労かけるなあ」とか
「子育て大変やろ。しんどかったら言うてくれよ」と言った
優しい言葉を掛けてくれたとか。(真っ赤になりながら)


で、とどめの一発。

「そこがアンタと大違いのとこや思うわ」



あなたはいつも自分の事ばかりよ。

香織の言葉を思いだしていた。言わせたのは健二自身だ。



ここら辺で主人公の「改心」と言うか今までの自分の家族に対する
接し方にかなり問題があったことに気付く。


そして香織を探す途中で彼女の友人宅に立ち寄ると、
友人が仕事で生計を支え、旦那さんは作家で専業主夫のような
役割を担っていた。
で、ある日「もう(売れない)小説家なんて辞めてよ」と
暴言の投げつけた結果
「別れよう」の4文字だけ残して旦那が消えた…


主人公と真逆ではありながらお互いに相手の事を
軽んじていたというのは同じ。
友人=ゴンちゃんは言う。


「実は旦那も疲れてたのよね」

ゴンちゃんが働いている間、旦那は遊んでいるわけではない。

洗濯をし、それを干し、食器を洗い、部屋の掃除をする。

昼に一度帰ってくるゴンちゃんの為に昼食を用意し、

スーパーにも行く。

(中略)

そして小説も書かなくてはならない。

「でもね、なんていうか、

家の外で働く者は、1日中家にいる人の事を、

ヒマって思ってしまうのよね…



読んでいてつらかったですね。
ああ、やっぱりこんな風に世間では軽く見られているんだ、と。
だからこそ、次男の言葉が心の支え。


「あなたみたいに根こそぎ家財道具を持って行かれる方がマシよ。

うちみたいに全部残されてみなさいよ。

部屋中あの人の残り香だらけなんだから。」

残された物すべてに思い出がある。

たった一つの物から旦那のクセまで思い出してしまう。




軽妙なやり取りの文章なのに一気に最後まで読ませる勢いのある
小説でした。